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おとといの日記で台風の話を書いてると書きましたが、終わりが全然見えてこないので前後篇にすることにしました。
携帯で打ってたら残り文字数が500くらいになっちゃってたし。
というわけで、後半を全く打ち込んでいませんが(ていうかある程度の要所しか考えてない)、前半アップします。
行き当たりばったりはデフォですよ。
後篇アップはいつになるか・・・なるべく早く・・・がんばります(汗)
携帯で打ってたら残り文字数が500くらいになっちゃってたし。
というわけで、後半を全く打ち込んでいませんが(ていうかある程度の要所しか考えてない)、前半アップします。
行き当たりばったりはデフォですよ。
後篇アップはいつになるか・・・なるべく早く・・・がんばります(汗)
*****
台風の夜に。前篇
朝は風だけだった。
それも少し強いかな?程度のもので、通学にはなんの問題もなく。
しかし朝練が終わる頃、上空にはどす黒くて分厚い雲。
空は風の勢いも強いのだろう。波打つように形を変えて動いているのがわかる。
昼のチャイムが鳴ると同時、校内放送が入った。
午後休校、と。
雨はまだかろうじて降りだしてはいなかったが、確かに風も強まっていた。
今日明日の練習は中止、と連絡が入る。確かにこのままではグラウンドは使い物にならない。
皆そぞろに下校していく。
それは野球部の面々も。
さて自分も早く帰ろう。雨が降らないうちに。
そう思い、駐輪場へ向かう。
そこでふと思う。
もう一度、念のため一応グラウンドを確認しに行こう。
いつもより早めに切り上げた朝練の後、部員全員で台風に備えて整備や片付けをしたのだ。
飛ばされそうなものはないか確認し部室に避難させ、打撃練習用ネットは隅に寄せて万が一に備えて倒しておいたり。
よし、忘れ物もない。
これなら大丈夫だろう。
朝に確認した場所を再確認し、ふう、と息を吐くと、一緒に笑みもこぼれた。
それは苦笑と言う。
自分の真面目さ、それは主将という立場からくるものだけでない、自分のこだわりのようなもの。
別段忘れていれば気にならないのだが、一度気が向いてしまうと確認しておいた方がなんとなくスッキリするし、気持ち的に。
さて今度こそ帰ろう。
そうグラウンドから出ようと足を踏み出した瞬間。
「はない!」
どこか、少し遠くの方から声をかけられた。
その方向を見やると、向こうから走ってくる見慣れた姿。
それは猛ダッシュでこちらに駆け寄ってきて、まるでぶつかるように花井に抱きついてきた。
「…っぶねーだろ!田島!」
「花井!なにしてんの!!早く帰んねーと飛ばされちゃうぞ!」
いや、飛ばされはしないだろ、とかいう突っ込みは置いといて。
鞄は既に見当たらない。てことは一回家に帰ったんだろう。
ぐしゃぐしゃとちょっと乱暴に髪を撫でて、どさくさにまぎれて抱きついてきた体を引き離せば、ぶーっと唇をつきだして不満げな表情。それにはあえて無言で対応しておいて。
「てゆーかお前こそ何してんだよ」
率直に本題を口にする。
「危ないから出歩くなって言われただろ」
台風接近中につき休校になったのだ。
遊びに出歩くんじゃないぞ、と担任からも言われているはずだ。
「むっ!なんだよ!そしたら花井だっていっしょじゃん!」
「俺は出歩いてねーし。今から帰るとこだし」
「おっおれだってカバン置いてきただけだし!」
ああ言えばこう言う。
そうやって張り合おうとするとこが面白くもあったりする。
しかしそれ以前に、今田島がここに来た理由はわかってる。
だからあまり口で負かすようなことはしない。
見上げてくるきらきらした大きな瞳は、すでに笑っている。
きっと自分の表情も、同じように笑っているのだと思う。
「もっかい確認しにきただけだし!花井もだろ?だからいっしょだし!」
今度は瞳だけでなく、花が綻ぶみたいに満面の笑みが咲いた。
「ああ、田島、一緒だな」
二人の周りだけはまるで荒天を感じさせないような雰囲気。
が、しかし。
「あ、雨」
ぽつり、二人の間に落ちてきた水滴に気づいたのは田島。
それはあっという間に地面の色を変えるほどのどしゃ降りに変わった。
「げ!!」
「花井!一回おれんちに避難しよ!」
しかし田島の家の玄関に着くころには、二人とも、着衣したままシャワー、あるいは頭からバケツで水を何度も吹っ掛けられたかのごとく。
「びしょ濡れ…」
花井が頭に巻いていたタオルも、そんな力を入れなくても絞れるほどに水を含んでいた。
「…田島、ビニール袋貰えねぇ?」
そんなタオルを外し、大きな手でぎゅっと絞ってもう一度頭に巻く。
「せめてカバンの中のモンだけでも濡れないように…って、この雨じゃヤバいかもだけど」
「へ?」
「へ?って何?」
「花井、この雨の中帰ンの!?」
「なんでそこで驚くンだよ。たりめーだろ、もっと風強くなってきたらそれこそ帰れねーだろが」
「えーっ!」
「えー!じゃねェって!お前は一体どうしたいんだよ!」
「どうしたいって、」
せめて迎えに来てもらうとか、それよか泊まってくとか。
「…きゃあ!あんたたちそんなずぶ濡れで何やってんの!」
玄関先でのすったもんだ、それに気づいたのは一家の縁の下の力持ち、田島母だった。
あらあらなんだか賑やかね、とのんきにパタパタとスリッパを鳴らしながら、息子とその友人の声のする方へ向かったなら。
「バスタオル持ってくるから、とにかく体拭きなさーい!風邪ひくでしょ!」
身体中から雨水を滴らせ、自分の足元に大きな水溜まりを作っている息子と、親友であり野球部主将の姿。
結局花井は有無を言わされることなくそのまま家に上がらされ、田島兄のジャージを借りることとなった。
そして遅くなった昼食を、田島家の居間で、田島と食べている。
雨脚は弱まることなく、風と共に強まってきた。
先ほど母の携帯に電話したものの、運転中だったか、はたまた気づかなかったのかで留守電となる。現在の状況を簡単に残し、折り返しかかってくるのを待っている。
どうやって家まで帰ろうか、そんな考えは既になく、親が迎えにくるのを待つしかない。
風が強まる前に濡れたままチャリを漕いで帰る予定だったのだ。しかし田島の母がそれを許してくれなかった。
まぁ確かにその気持ちもわかるのだが。
「………はない、怒ってる?」
先ほどから無言のまま昼食を摂っている花井の様子に痺れを切らし、田島が声をかけた。
「おれや、かーさんが引き留めたの怒ってる?」
やけに静かだと思っていたら、どうやら田島はそれを気にしていたらしい。
確かに親子で強引に引き留めたと言っても過言じゃなかったから。
「いや?怒ってねーよ。むしろこっちが迷惑かけてるし、悪いなと思って」
「んーん!全っ然迷惑じゃねぇし!ほらうち、大家族だし!一人や二人増えたくらいじゃ全然関係ねーもん!だから花井、全然いてくれていいんだ!」
「そっか、ありがとな田島」
必死な田島の様子に、ふ、と笑みがこぼれた。そのささいなことにも一生懸命な様子が可愛いと思った。
同い年のオトコにそう思うのはどうかとも思ったが、素直にそう感じてしまったのだから仕方ない。それにコイツはまだまだガキんちょの範囲をかなり抜け出してない。
だから良いのだ。
「花井くん、お母さんから電話よ」
そんな中、ひょっこり顔を覗かせた田島母の手には電話の子機が握られていた。
何故田島家の電話に?と思ったが、そういえば携帯をサイレントにしたままだったことを思い出す。
着信に気づかない、しかし留守電に田島家にいると吹き込んでおいてあったからこっちに電話が、と一瞬で脳回路が回る。
子機を受け取りもしもしと言葉を発したなら、それに被さる母の言葉。
「梓?田島さんのお言葉に甘えさせてもらっちゃうわね。悠くんにも、ご家族の皆様にもよろしく~」
そしてぷつ、と切れる。
は?意味がわからん。とハテナが花井の頭に飛んだ瞬間、後ろから田島母。
「なんのお構いもできないけど、遠慮なく寛いでってね」
この台風の中、花井を家に泊めると田島母の中で既に話は決まっていたらしい。それは花井母から電話がある前から。
そして迎えにいく予定だった花井母もそれを喜んで承諾したのである。
「え!花井泊まってくのか!やったー!」
しかしそれを一番喜んだのは、言うまでもなく田島だ。
一方花井は何だか拍子抜けをした様子で子機を握りしめていた。
いつもは部活で汗水を流している時間に何もすることがないというのは、苦痛ではないが意外と暇なものである。
これが自宅であればやることをみつけるのは容易で、部屋の掃除をしてみたり、勉強机に向かったりすることもあるのだがいかんせんここは田島の家。
思い切りだらだらするには気が引ける。
カバンの中のものはエナメルバックのお陰でほとんど濡れはしていなかったが、一応、と田島母が除湿機がある部屋でカバンと共に乾かしてくれている。
雨に濡れた服と朝練時に着用した練習着に至っては洗濯乾燥中。
田島はお手伝い!と言って、昼食の後片付けをしに行った。
広い居間には自分一人。さて何をしようか、首を傾げれば、コキ、とイイ音がした。
「花井お待たせ!」
しばらくすると田島が元気よく戻ってきた。
結局何もすることは見つからず、とりあえず田島が戻ってくるまで待っていようと胡座をかきなおしたら、テーブルの下にあった新聞に気づいた。
たまにはテレビ欄以外も見てみようと、地方面や社会面を広げて目を通しているところだった。
「なんかオモシーコト書いてある?」
新聞を開いている花井に気付き、うげ、と眉を寄せ、口を曲げた田島。
それでも隣に座り込み、花井が視線を落としていた先に、自分も目をやる。
ちっちゃい活字だらけで目眩がしそうだと田島は呟いた。
「んー?よくわかんねェ」
高校生身分ではいまいち実感の湧かない話や、理解のできない小難しい話ばかりで、頭が良い花井でさえもさすがにすべてを飲み込むことはできないでいる。
自分だって田島と同じで、良く目を通すのはテレビ欄とスポーツ面なのだ。今みたいに社会面なんて眺めることはまずほとんどない。
ただ状況が状況なだけに、暇潰しということで。
「暇だから眺めてただけ」
パサリと新聞を閉じれば、田島がじっと花井を見つめた。
「なに?」
心の中まで見透かされていそうだと思うくらい、田島のまっすぐな視線は純粋なものに思える。
ときどきそれがひどく心をかき乱すほど、たじろぐほどで、花井は時々落ち着かなくなる。
「花井は台風こわくねェ?」
「へ?…ん、まぁ怖くないったら嘘になるかもだけど、別にこれと言って平気だろ」
まじまじと見つめられて、真面目に答える。
そりゃガッツリ直撃を食らうなら話は別だろうが、別段台風を怖がる年齢ではすでにないし。
……あ。こいつはアレか、台風とか強い風が吹くと外に出てわざと煽られに行って楽しむタイプか。ありえる。絶対そうだ。
「…言っとくけど、風に吹かれるとかいって外になんか行かねェからな」
先に釘を打っておこう。
「ん!おれもそんなんしねぇよ!」
あれ?意外な反応。
「な、おれの部屋行こ!ゲームしよーぜ!」
それともDVD鑑賞する?えっちなやつの。
ちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべながらそう言う田島の頭を痛くない程度の拳骨で小突けば、今度は子どもっぽい満面の笑みが、顔を少し赤くした花井に向かってこぼれた。
そしてギュッと手を握られ、田島の部屋に案内される。
風は先ほどより勢いを増してきた。
最接近は今夜。
続。
朝は風だけだった。
それも少し強いかな?程度のもので、通学にはなんの問題もなく。
しかし朝練が終わる頃、上空にはどす黒くて分厚い雲。
空は風の勢いも強いのだろう。波打つように形を変えて動いているのがわかる。
昼のチャイムが鳴ると同時、校内放送が入った。
午後休校、と。
雨はまだかろうじて降りだしてはいなかったが、確かに風も強まっていた。
今日明日の練習は中止、と連絡が入る。確かにこのままではグラウンドは使い物にならない。
皆そぞろに下校していく。
それは野球部の面々も。
さて自分も早く帰ろう。雨が降らないうちに。
そう思い、駐輪場へ向かう。
そこでふと思う。
もう一度、念のため一応グラウンドを確認しに行こう。
いつもより早めに切り上げた朝練の後、部員全員で台風に備えて整備や片付けをしたのだ。
飛ばされそうなものはないか確認し部室に避難させ、打撃練習用ネットは隅に寄せて万が一に備えて倒しておいたり。
よし、忘れ物もない。
これなら大丈夫だろう。
朝に確認した場所を再確認し、ふう、と息を吐くと、一緒に笑みもこぼれた。
それは苦笑と言う。
自分の真面目さ、それは主将という立場からくるものだけでない、自分のこだわりのようなもの。
別段忘れていれば気にならないのだが、一度気が向いてしまうと確認しておいた方がなんとなくスッキリするし、気持ち的に。
さて今度こそ帰ろう。
そうグラウンドから出ようと足を踏み出した瞬間。
「はない!」
どこか、少し遠くの方から声をかけられた。
その方向を見やると、向こうから走ってくる見慣れた姿。
それは猛ダッシュでこちらに駆け寄ってきて、まるでぶつかるように花井に抱きついてきた。
「…っぶねーだろ!田島!」
「花井!なにしてんの!!早く帰んねーと飛ばされちゃうぞ!」
いや、飛ばされはしないだろ、とかいう突っ込みは置いといて。
鞄は既に見当たらない。てことは一回家に帰ったんだろう。
ぐしゃぐしゃとちょっと乱暴に髪を撫でて、どさくさにまぎれて抱きついてきた体を引き離せば、ぶーっと唇をつきだして不満げな表情。それにはあえて無言で対応しておいて。
「てゆーかお前こそ何してんだよ」
率直に本題を口にする。
「危ないから出歩くなって言われただろ」
台風接近中につき休校になったのだ。
遊びに出歩くんじゃないぞ、と担任からも言われているはずだ。
「むっ!なんだよ!そしたら花井だっていっしょじゃん!」
「俺は出歩いてねーし。今から帰るとこだし」
「おっおれだってカバン置いてきただけだし!」
ああ言えばこう言う。
そうやって張り合おうとするとこが面白くもあったりする。
しかしそれ以前に、今田島がここに来た理由はわかってる。
だからあまり口で負かすようなことはしない。
見上げてくるきらきらした大きな瞳は、すでに笑っている。
きっと自分の表情も、同じように笑っているのだと思う。
「もっかい確認しにきただけだし!花井もだろ?だからいっしょだし!」
今度は瞳だけでなく、花が綻ぶみたいに満面の笑みが咲いた。
「ああ、田島、一緒だな」
二人の周りだけはまるで荒天を感じさせないような雰囲気。
が、しかし。
「あ、雨」
ぽつり、二人の間に落ちてきた水滴に気づいたのは田島。
それはあっという間に地面の色を変えるほどのどしゃ降りに変わった。
「げ!!」
「花井!一回おれんちに避難しよ!」
しかし田島の家の玄関に着くころには、二人とも、着衣したままシャワー、あるいは頭からバケツで水を何度も吹っ掛けられたかのごとく。
「びしょ濡れ…」
花井が頭に巻いていたタオルも、そんな力を入れなくても絞れるほどに水を含んでいた。
「…田島、ビニール袋貰えねぇ?」
そんなタオルを外し、大きな手でぎゅっと絞ってもう一度頭に巻く。
「せめてカバンの中のモンだけでも濡れないように…って、この雨じゃヤバいかもだけど」
「へ?」
「へ?って何?」
「花井、この雨の中帰ンの!?」
「なんでそこで驚くンだよ。たりめーだろ、もっと風強くなってきたらそれこそ帰れねーだろが」
「えーっ!」
「えー!じゃねェって!お前は一体どうしたいんだよ!」
「どうしたいって、」
せめて迎えに来てもらうとか、それよか泊まってくとか。
「…きゃあ!あんたたちそんなずぶ濡れで何やってんの!」
玄関先でのすったもんだ、それに気づいたのは一家の縁の下の力持ち、田島母だった。
あらあらなんだか賑やかね、とのんきにパタパタとスリッパを鳴らしながら、息子とその友人の声のする方へ向かったなら。
「バスタオル持ってくるから、とにかく体拭きなさーい!風邪ひくでしょ!」
身体中から雨水を滴らせ、自分の足元に大きな水溜まりを作っている息子と、親友であり野球部主将の姿。
結局花井は有無を言わされることなくそのまま家に上がらされ、田島兄のジャージを借りることとなった。
そして遅くなった昼食を、田島家の居間で、田島と食べている。
雨脚は弱まることなく、風と共に強まってきた。
先ほど母の携帯に電話したものの、運転中だったか、はたまた気づかなかったのかで留守電となる。現在の状況を簡単に残し、折り返しかかってくるのを待っている。
どうやって家まで帰ろうか、そんな考えは既になく、親が迎えにくるのを待つしかない。
風が強まる前に濡れたままチャリを漕いで帰る予定だったのだ。しかし田島の母がそれを許してくれなかった。
まぁ確かにその気持ちもわかるのだが。
「………はない、怒ってる?」
先ほどから無言のまま昼食を摂っている花井の様子に痺れを切らし、田島が声をかけた。
「おれや、かーさんが引き留めたの怒ってる?」
やけに静かだと思っていたら、どうやら田島はそれを気にしていたらしい。
確かに親子で強引に引き留めたと言っても過言じゃなかったから。
「いや?怒ってねーよ。むしろこっちが迷惑かけてるし、悪いなと思って」
「んーん!全っ然迷惑じゃねぇし!ほらうち、大家族だし!一人や二人増えたくらいじゃ全然関係ねーもん!だから花井、全然いてくれていいんだ!」
「そっか、ありがとな田島」
必死な田島の様子に、ふ、と笑みがこぼれた。そのささいなことにも一生懸命な様子が可愛いと思った。
同い年のオトコにそう思うのはどうかとも思ったが、素直にそう感じてしまったのだから仕方ない。それにコイツはまだまだガキんちょの範囲をかなり抜け出してない。
だから良いのだ。
「花井くん、お母さんから電話よ」
そんな中、ひょっこり顔を覗かせた田島母の手には電話の子機が握られていた。
何故田島家の電話に?と思ったが、そういえば携帯をサイレントにしたままだったことを思い出す。
着信に気づかない、しかし留守電に田島家にいると吹き込んでおいてあったからこっちに電話が、と一瞬で脳回路が回る。
子機を受け取りもしもしと言葉を発したなら、それに被さる母の言葉。
「梓?田島さんのお言葉に甘えさせてもらっちゃうわね。悠くんにも、ご家族の皆様にもよろしく~」
そしてぷつ、と切れる。
は?意味がわからん。とハテナが花井の頭に飛んだ瞬間、後ろから田島母。
「なんのお構いもできないけど、遠慮なく寛いでってね」
この台風の中、花井を家に泊めると田島母の中で既に話は決まっていたらしい。それは花井母から電話がある前から。
そして迎えにいく予定だった花井母もそれを喜んで承諾したのである。
「え!花井泊まってくのか!やったー!」
しかしそれを一番喜んだのは、言うまでもなく田島だ。
一方花井は何だか拍子抜けをした様子で子機を握りしめていた。
いつもは部活で汗水を流している時間に何もすることがないというのは、苦痛ではないが意外と暇なものである。
これが自宅であればやることをみつけるのは容易で、部屋の掃除をしてみたり、勉強机に向かったりすることもあるのだがいかんせんここは田島の家。
思い切りだらだらするには気が引ける。
カバンの中のものはエナメルバックのお陰でほとんど濡れはしていなかったが、一応、と田島母が除湿機がある部屋でカバンと共に乾かしてくれている。
雨に濡れた服と朝練時に着用した練習着に至っては洗濯乾燥中。
田島はお手伝い!と言って、昼食の後片付けをしに行った。
広い居間には自分一人。さて何をしようか、首を傾げれば、コキ、とイイ音がした。
「花井お待たせ!」
しばらくすると田島が元気よく戻ってきた。
結局何もすることは見つからず、とりあえず田島が戻ってくるまで待っていようと胡座をかきなおしたら、テーブルの下にあった新聞に気づいた。
たまにはテレビ欄以外も見てみようと、地方面や社会面を広げて目を通しているところだった。
「なんかオモシーコト書いてある?」
新聞を開いている花井に気付き、うげ、と眉を寄せ、口を曲げた田島。
それでも隣に座り込み、花井が視線を落としていた先に、自分も目をやる。
ちっちゃい活字だらけで目眩がしそうだと田島は呟いた。
「んー?よくわかんねェ」
高校生身分ではいまいち実感の湧かない話や、理解のできない小難しい話ばかりで、頭が良い花井でさえもさすがにすべてを飲み込むことはできないでいる。
自分だって田島と同じで、良く目を通すのはテレビ欄とスポーツ面なのだ。今みたいに社会面なんて眺めることはまずほとんどない。
ただ状況が状況なだけに、暇潰しということで。
「暇だから眺めてただけ」
パサリと新聞を閉じれば、田島がじっと花井を見つめた。
「なに?」
心の中まで見透かされていそうだと思うくらい、田島のまっすぐな視線は純粋なものに思える。
ときどきそれがひどく心をかき乱すほど、たじろぐほどで、花井は時々落ち着かなくなる。
「花井は台風こわくねェ?」
「へ?…ん、まぁ怖くないったら嘘になるかもだけど、別にこれと言って平気だろ」
まじまじと見つめられて、真面目に答える。
そりゃガッツリ直撃を食らうなら話は別だろうが、別段台風を怖がる年齢ではすでにないし。
……あ。こいつはアレか、台風とか強い風が吹くと外に出てわざと煽られに行って楽しむタイプか。ありえる。絶対そうだ。
「…言っとくけど、風に吹かれるとかいって外になんか行かねェからな」
先に釘を打っておこう。
「ん!おれもそんなんしねぇよ!」
あれ?意外な反応。
「な、おれの部屋行こ!ゲームしよーぜ!」
それともDVD鑑賞する?えっちなやつの。
ちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべながらそう言う田島の頭を痛くない程度の拳骨で小突けば、今度は子どもっぽい満面の笑みが、顔を少し赤くした花井に向かってこぼれた。
そしてギュッと手を握られ、田島の部屋に案内される。
風は先ほどより勢いを増してきた。
最接近は今夜。
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プロフィール
HN:
aya
性別:
女性
職業:
ほのつく職業。
自己紹介:
2011年7月に突然ハナタジに心臓を打ち抜かれた良い歳こいた隠れ腐女子(既婚やし、女子と言っていい年齢かどうかも不明だが…)です。おお振り初心者マークを貼っつけながらもまったりがんばります。
20120321HN変更。
20120321HN変更。
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